良い音でiPodを聴くには~ビットレート、AAC、Appleロスレス、MP3

iPod

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iPodを良い音で聞きたいという質問は、はてな等でよく聞く。AACやMP3でビットレートを上げた方が良いとか、Appleロスレスが良いとか。どの組み合わせが一番いい音なのだろう。しかし、それらに対して???と思う。それについて論じたい。いい音で最高の音質でiPodを聞くにはどうすればいいのだろう。


TEACカセットデッキ

TEACカセットデッキ

話は長くなるがまず私の紹介から。私はおじさんである。しかし、ただのおじさんよりは音にうるさいと思う。と言うのは、高校時代はオーディオ小僧だったからである。
私が高校時代はオーディオ全盛期、ダイアトーンの密閉型スピーカーはすばらしかった。サンスイのバスレフ型スピーカーは抜けが良かった。ナカミチやTEACのカセットデッキは高嶺の花だった。2トラ38のオープンリールは、いつかは手に入れたいと思っていた。
学校の帰りに週に1度はオーディオショップへ行き、とても手が届かない高級オーディオ機器を見て、カセットテープを買って帰っていた。買ったカセットテープは、エアチェック(FMを録音すること)をしていた。


2トラ38デッキ

2トラ38デッキ

当時はレンタルCDなどはなかった。CDもなかった。LPレコードの時代である。新しいLPが発売されるとFMNHK等で、片面ずつ放送された。それをカセットテープに録音して楽しむのである。したがって、2週間分のプログラムが掲載されているFMレコパルや週間FM等のFM雑誌を購入し、いつどこでどの曲が流れるかをチェックした。今で言うテレビガイドだ。そして、少しでもいい音で録音するためにカセットの録音レベルはもちろんのこと、バイアスやイコライザーも独自に設定した。Dolby等のノイズリダクションシステムも利用した。

その他のオーディオ機器もしかり。少しでもいい音で聞こうといろいろ工夫をした。FMを聞くのでもアンテナを立てるのが当然であった。我が家はかなり強電波が受信できたこと、また高校生であったことにより高額なアンテナを設置することが出来ない。室内簡易アンテナだった。スピーカーの下には台を置いた方が低音が抜けるということで、ブロックを置いていた。レコードは当然かける前に清掃をする。時には木工用ボンドを全面に塗り、ゴミを取ったものだ。アンプに関してはグラフィックイコライザーを買うことも出来ないので、多少の高音低音の音量をいじった程度であった。とにかく、少しでもいい音で聞こうとあれこれ工夫したものだ。

さて、昔話はこれくらいにして少しずつ本題に戻る。今のFMはどうだろう。かつてのような良い音で音楽を流すという姿勢は、放送局にはなくなった。視聴者も、いい音で聞こうという姿勢はない。うちには高校生と大学生の2人の息子がいる。彼らは良くFMを聞いている。下の子は良くメールを出したりして、景品をたくさんもらっている。今のFMは、FAXやメールなどを利用した視聴者参加型、まるでAM放送のように様変わりしている。FM雑誌も役目を終わり廃刊となった。少しでも良い音で音楽を流そうという姿勢は、後述する数少ない例外を除いて放送局になくなってしまったようだ。FMチューナーもかつては15万円くらいするトリオ製があったが、今はどれも3万円くらいだ。以前チューナーが壊れて大須へ買いに行った。どれも3万位で同じよう、面白くない。中古屋へ寄った。親父にチューナーを探していると言ったら、KENWOODの1100Dにしろと言われた。ZIPFMなどを聞いている分には音質の違いはわからないが、NHKのPCM録音された番組だと違いははっきりわかると。25000円したが、そうですかとその場は逃げ、後日ヤフオクで5000円で入手した。

さて、このチューナーが威力を発揮する番組の一つは、山下達郎のサンデーソングブックである。この番組は山下達郎が言っているが、「最高の選曲と最高の音質」である。未だにFMの音質の良さを生かして番組作りをしている、お手本となる数少ない番組だ。もう一つ高音質のお勧め番組は、NHKのJAZZセッションである。この番組はスタジオライブの様子を録音して、毎週公開している。楽しみにしている番組だ。
また、話がそれたが、FMというのは本来いい音を流しているのだ。しかし、息子をはじめ若い人達は、FMを携帯ラジオやiPodで良い音を追求することなく、聞き流している。もっと良い音でFMを聞いてほしいと思う。

MDプレーヤーも同じ事がいえる。MDプレーヤーが初めて出たときは、CDと同じ音質で録音できると、大いに喜んだものだ。そして、その音を楽しんだ。しかし、息子達はMDをどうしているかというと、3倍速で録音しているのである。私に言わせるととんでもない。何でわざわざ音質を下げて録音するのだ、もったいないと思ってしまう。しかし、息子達はそのことについて何とも思っていない。悪い音でも何ともないのだ。

iPodにおいてもしかりである。もっといい音で聞いてほしい。以前海外高級オーディオフェアへ行ったときの話である。参加者は、私よりおじさんばかりである。私が一番若いくらいであった。若い人は、唯一カップルがいただけだった。みんな熱心に新製品の情報を聞き、音を楽しんでいた。
その後、栄のAppleStoreへ行った。今度は若い人ばかり。ただ、所々におじさん、おじいさんがいる。こういう人たちもiPodを楽しんでくれることをうれしく思う。しかし、本当にいい音で聞いてくれているのであろうか。
iPodを使っている人は本当によく見る。地下鉄や電車に乗っていると、1車両に必ず複数は見かける。それは、付属の白いヘッドフォンを使っているのですぐわかる。それだけ多くの人が付属のヘッドフォンに何の疑いもなく、音楽を楽しんでいるのである。しかし、「そのヘッドフォン、ちょっと待って」と言いたい。なんでそんなへぼいヘッドフォンを使っているの?


iPod付属ヘッドフォン

iPod付属ヘッドフォン

数年前、高校生数人を相手にiPodとiTunesの使い方を教えた。そのときに、彼らが持っているiPodを利用して、普段彼らが聞いている付属のヘッドフォンと私のShureE4cとの聞き比べをやらせた。彼らは、私のヘッドフォンの音を聞くと、目を白黒させて驚き、「ヘッドフォン変えよう」と言った。彼らにとって、衝撃的だったのである。ヘッドフォンを変えただけで、ビットレートがどうのこうのという次元とは全く違う良い音がするのである。しかし、このShureE4c、使っている人を街中でほとんど見ない。過去に一度だけ見た。うれしくなって、思わず声をかけようかと思ったくらいだ。このShureE4cは、ヘッドフォンだけに腹に響く低音は出ないが、高音の伸びがすばらしい。ドラムのシンバルやハイハットの音は、こんな音が録音されていたのかと思うほど、他のヘッドフォンでは再生できない。


ShureE4c、素晴らしい音だ

ShureE4c、素晴らしい音だ

ヘッドフォンだけではない。据え置きスピーカーでもそうだ。私はiPod再生用のコンパクトスピーカーとして、BOSEのMicro Music Monitor M3を使っている。雑誌の評判がすこぶる良かったので、高いが買ってみた。売れに売れていたので、注文してから1ヶ月半待った。手元に届き、初めて聞いてびっくりした。小型ながら低音がものすごく鳴る。驚異だ。それ以来愛用している。


Bose Computer MusicMonitor

Bose Computer MusicMonitor

iPodは、大型のスピーカーでも再生している。愛用しているパイオニアのVSA-AX4AViは、iPod専用のケーブルが付属している。それでサンスイのバスレフ型スピーカーSP-4000をならしている。いい音がする。しかし、オリジナルのCDと比べると雲泥の差だ。それだけ、iPodの音は原音を圧縮しているからだ。
色々な再生機器がある。良い音を楽しんでほしい。悪い再生機器を利用しておいて、そこで、ビットレートや圧縮形式がどうのこうのと論じてもナンセンスである。その違いを再生できない程度の装置なのだからだ。


パイオニアのVSA-AX4AVi

パイオニアのVSA-AX4AVi

では、高級オーディオ機器を利用しiPodを再生したら、ビットレートや圧縮形式の違いが本当にわかるのだろうか。雑誌MacFanでかつて実験したことがあり、その記事を読んだ。利用したのは、プリアンプは320万円のマークレビンソンNo32L、メインアンプは忘れたが、確か1台100万円(LとRで倍の200万円)くらいだった。スピーカーは1本160万円(LとRで倍の320万円)のJBLProject K2 S9800、スピーカーコードは1m8万円くらいしたもの。総額800万超のオーディオ装置を使いiPodを再生した。そうしたらビットレートや圧縮形式の違いを全部再現し、その違いがわかったと言うことである。これは、その違いを再現できる再生装置であったことと、さらに最高の音響室で、大音量で再生したと言うことである。大音量というのが重要だ。大音量であれば、それだけ違いがわかるようになる。我が家のアンプVSA-AX4AViは、最高出力220Wである。しかし、1Wの音量で再生したらかなり近所迷惑になる。アンプの性能を十分に発揮できないのである。
これだけ条件が整えば、その違いは耳が肥えていない人でもわかったのだろう。


JBL Project K2 S9800 Special Edition

JBL Project K2 S9800 Special Edition

それでは、私のオーディオシステムに1m8万円のスピーカーコードを使うと音が良くなるかというと、そうではない。その違いを再現できるアンプであるか、スピーカーであるかという問題である。1m8万円も出すなら、1m5000円くらい(これでも高すぎる気がする)にして、残ったお金でスピーカーを買った方が遙かに良い音がする。
iPod標準のへぼい再生装置を利用しながら、ビットレートや圧縮方式云々を言うことは、私には次のようなたとえに思える。
GTRではないスカイラインクーペ(iPod)で、渋滞が多い街中(へぼい再生装置)を速く走りたい。そのためには、エアロパーツやサスペンション、エンジンの馬力やトルクをどうしたらよいかを考えるように思える。それより高速道路(良い再生装置)を走らせてみよう。その再生装置は首都高かもしれないし、一般高速道路かもしれないし、あるいはアウトバーンやサーキットかもしれない。けれどもスカイライン(iPod)の性能をかなり発揮できるようになると思う。それでもその走りに安定性が悪い、アンダーステアがきつい等と満足いかなかったら、サスペンションやエアロバーツ、エンジンのチューンアップ(ビットレートや圧縮形式の変更)などを図ればよいと思う。それでも満足行かなかったらスカイライン(iPod)をやめ、フェラーリ(CDプレーヤー)などに変えたらよい。

さて、結論。iPod付属のヘッドフォンで聴きながら、Appleロスレスの方がAACより音が良い等と論じないでほしいのである。もちろんiTunesラジオで聞く、128と64では明らかに違うが。数字や圧縮形式だけで音の善し悪しを論じないで、音質が不満なら、まずヘッドフォンを変えよう。投資対対価で言うと、一番効率がよい。ヘッドフォンを変えずに、コードだけを高い物に変えてもさして効果はない。圧縮形式や高価なコードへの交換を真っ先に勧める姿勢には問題を感じる。


ヘッドフォンを買うときは、必ず視聴しよう。普段使っているiPodを持って行ってそれで視聴させてもらおう。視聴をさせてくれないような店では買わない方が良い。また、品揃えが多い店より、品揃えが少なくてもオーディオ専門店で買おう。店主こだわりの一品があるし、店員から色々とうんちくも聞ける。品揃えの多い量販店では迷ってしまうだけだし、視聴も出来ないであろう。ヘッドフォンはそれぞれ癖がある。ヘッドフォンに得意な音源もあるし、あなたの気に入った音質もあるだろう。良く聴く音楽もあるだろう。また、インナー式やオープンエアー、ノイズリダクションなど色々ある。自分の用途にあったものにしよう。私の場合、大須のノムラ無線へ自分のiPodを持って行き、視聴させてもらい、ShureE4cに決めた。この音が気に入ったのである。それより高いものも安いものも視聴したが、この音質が一番私に合っていたのだ。Boseのノイズキャンセリング方式のヘッドフォン、QuietComfort3も聞いてみたが、私にはそんなに感動するほどではなかった。

お気に入りのヘッドフォンで聴き、それでも満足がいかないのなら、ここで初めてビットレートや圧縮形式を考えてみよう。
iTunesAACのエンコーダーは、音が良いという評判である。しかし、それでも納得いかないのなら、SonicStageを使うという手もある。
iTunesのMP3エンコーダーは音が悪いと言われている。一番音がよいMP3エンコーダーはLameと言われている。
私は通勤で毎日往復1時間半くらいバスに乗り、その中でiPodを聴いている。私が普段聞いているのは、AACの128である。AACでないとアルバムアートが表示されないからである。iPodの音源を、ヘッドフォンで聴くということはある程度音質が悪くなると割り切っている。しかし、その中でもShureE4cで聞くと、外部の音が全く聞こえなくなり、至極の音楽空間に浸ることが出来、大変満足している。

どうか若い人たちには、もっと音にこだわってほしい。決して使い捨て製品のように悪い音で聞き流すことのなく、自分のお気に入りのヘッドフォンを買い、良い音でiPodを聞いてほしい。そして、決して数字や圧縮形式だけに惑わされないでほしい。自分の耳で確かめてほしい。
最後に本を1冊紹介しておく。少し古い本で、数式がたくさん出てくる本だが、理解できるとこだけを読めばよい。



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